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Chef’s VOICE

​- VOL.01 -

Chef’s Profile

Mr. Morita.jpg

氏名

森田 省司

海外勤務国

​カナダ、南アフリカ共和国、ギリシャ、ハンガリー、ロシア、

バングラデシュ、インド、スイス

調理経験分野

寿司、河豚、調理師学校講師

Q.

森田シェフ、こんにちは。本日は、お時間をいただきありがとうございます。よろしくお願いします。

さて、森田シェフは、今、スイスにいらっしゃるとのことですが、これまでかなり多くの国に行かれていますね。

 

そうですね。かなりいろいろと行きましたね。カナダ、南アフリカ共和国、ギリシャ、ハンガリー、ロシア、ノルウェー、バングラデシュ、インド・・・で、今、スイスです。

Q.

うわっ!すごい・・・。当社は、これまで多くの料理人の方々の海外転職のお手伝いをしてきましたので、いろいろな国に行かれている

料理人を見てきましたが、南アフリカ(以下、南ア)での就業経験をお持ちの方は珍しいですね。バングラデシュ(以下、バングラ)も

あまりいらっしゃらない。

Q1.

 

はい、私は僻地担当なんです。(笑)

どちらかというと、私は寿司や和食がある程度定着してきているところより、まだまだこれからの地、未開の地に興味があったりしますね。

その分、苦労は多いですが、面白さも感じるんです。

Q.

僻地担当ですね。(笑)

では、森田シェフには、他のシェフにはなかなかお聞きできない南アやバングラでのご経験についてお聞きした方が良いかもしれませんね。

そうかもしれません。他の国のことは、別のシェフにも聞けるでしょうからね。

Q.

では、まず南アフリカの話から・・・。南アフリカには、2度行かれているようですね。

 

そうなんです。実は、私は日本人としてはかなり珍しいと思いますが、南アの永住権を所持しています。そのため、ビザの心配もいらず、私にとっては行きやすい国の一つなんです。そんなこともあり、仕事で2度ほど行っています。といっても、2回目は南アでワールドカップがあった年に、ワールドカップが始まる前から終わるまでの4ヶ月という短期の契約でしたけどね。

南アスタッフ3.jpg

Q.

南アの永住権をお持ちなんですか?南アの永住権を持っている日本人は、はじめてです。日本にいると南アについては情報がなく、ただ「危険」「危ない」というイメージが先行してしまいますが、その辺はどうなんでしょう?

 

まあ、報道の通りですね。治安は、はっきり申し上げてよくありません。そのため、2度目の滞在のときにも「夜は出歩かない」「車の中には何も置かない」といったようなことは気をつけていました。ヤバイ場所はわかっていますので、そのようなところには当然近寄りません。あとは夜中に車に乗るとき、赤信号は無視して止まらずにゆっくり通過しますね。

Mr. Morita2.jpg

Q.

治安面はやはりそうなのですね。赤信号を無視するというのは、止まっている間に襲撃されるなんてことがあったりするからなのでしょうね。2度の滞在を通じて、治安面以外で何かトラブル等はなかったですか?

 

1度目のとき、給与支払いで問題が発生しました。弁護士を雇い、裁判沙汰にまでなりました。
南アに来る前に日本で契約書も受け取り、内容を確認、サインをした上で行ったのですが、実際に受け取る給与は低いし、仕事内容も違う。結果、そのレストランは1年で辞めることになったのですが、未払い給与があったため訴えることにしたのです。

どうやら私が日本でサインした契約書は、レストラン側に相当有利な内容になっており、弁護士からは「南アでこんな契約書はあり得ない」と言われました。 最終的には、どんな契約書であれ、自分でサインしたということで示談になり、少しのお金(当初要求額の1/4)は払ってもらいました。ただ示談前には、やってもいないことを雇用主にでっち上げられ、不当に警察に拘束されたりもしたんですよ。(笑)

こういうのは時間の無駄ですし、知識があれば防ぐことができます。良い勉強になりました。海外では自分を守るのは自分しかいませんからね。

Q.

それはそれは貴重な経験と言ったらいいのか・・・(笑)

しかし、契約書は海外に出るときには本当に重要ですよね。

 

そうですね。私は、当時、契約書は同意書ぐらいにしか思っていませんでしたからね。契約書にサインするときには、内容をよく吟味し、不安なら第三者に確認してもらうぐらいのことをすべきですね。

Q.

南アでの仕事について、少しお話をお聞かせください。

 

2度目の南アの職場は、ヨハネスブルグで当時既に10年以上営業しているお店でした。ですので、特に大きな問題もなく仕事ができましたね。食材の購入なども決まった業者に長くお世話になっていましたので、私は調理の方に集中できました。ラーメンやうどんなどの麺や納豆などもお出ししていたのですが、これはかなり前から自家製でした。この辺は、見習わないといけないなあと思いましたね。なぜかというと、私は以前、別の国で手打ちうどん、手打ちそばを教えたことがあるのですが、日本の作り方そのままだとやはり難しい。南アのそのお店では、フードプロセッサーやパスタマシンなどを工夫して使い、現地の料理人でも作れるようなオペレーションを構築していたんです。

Q.

南アでも麺類や納豆を自家製で作っているレストランがあることは驚きです。そのお店のお客様は、ほとんどが現地の方だったんですよね?納豆なども食べるんですね。現地の方々に人気の秘訣や現地の方々のテイストにあった素材や味付け、調理方法等、工夫をなさったことはどういったことでしたか?

 

寿司の握りは、日本人向けとは違って大きさや硬さを変えています。刺身の盛り合わせなども日本人の場合はマグロを多めにしますが、外国人にはサーモンを多めにしたり、わさび以外に刻んだチリを混ぜた醤油を添えたりという工夫はしていますね。

Q.

食材はそれなりに手に入るのですか?

 

日本の食材は少ないですが、工夫してなんとかやりました。ただ、寿司に使うマグロはケープタウンからまあまあ良いものが手に入ります。そうは言っても、もちろん日本とは比べ物にはなりませんけどね。鮮度を保つために航空便でヨハネスブルグまで送ってもらうので、コストもバカになりません。他にも航空便を使っている食材は結構あります。伊勢海老は活きたままケープタウンから、サーモンはスコットランドやイングランドから、牡蠣は現地のものもありますが、身が小さいためフランスからなのです。白身の魚、イカ、海老などは漁港に行けば良い物があるのですが、現地の魚屋の管理が良くないので、内陸のヨハネスブルグに来るまでにだいぶへたってしまいますね。

Q.

南アの和食料理人の技術、知識、経験等はいかがですか?

 

料理スタッフは全員黒人でしたね。日本料理に限らずだと思いますが、彼らからしてみれば、今まで食べたことがなく、これからも食べない料理を作っているのですから、レベルは最低最悪ですよ。しかし、根気強く教えていけば、作業自体はかなり上手にはなります。「味を作る」というところまで求めてはいけないのでしょうね・・・。

南アスタッフ1.jpg

Q.

確かに彼らからしてみれば、食べたこともなく今後も食べない料理でしょうね・・・。しかし、そんなスタッフに囲まれ仕事をするのも大変でしょう。ローカルのスタッフと一緒に働くにあたり、難しさもちろんですが、逆にやりがいといったものを感じるときもあるのではないかと思うのですが、何か面白いエピソード等はありますか?

 

当時、私は曜日によって寿司カウンターに立つ日とキッチン内にいる日がありました。第1回目の南ア滞在は、結果として3年間働きましたので慣れてはいましたが、黒人のキッチンスタッフ10人ほどの中に日本人が私1人、これは経験がない人にしたら結構大変だと思います。基本的には英語で会話をしますが、黒人スタッフ同士は部族の言語(ズールーやコーザ)で話していましたね。

Q.

いや~未知の世界ですね・・・。そのような環境で仕事を円滑に進めるためにはいろいろと気を遣うことも多いでしょ?

 

彼らをマネジメントする上で気をつけていることは、まずすぐに皆の名前を覚えることですね。挨拶のときは、こちらから名前を呼ぶようにしています。皆が私の名前を覚えるのは簡単ですが、私はホールのスタッフも含めると20名ぐらいの名前を覚えるので大変です。なんせ皆の名前は、佐藤でもなければ鈴木でも山本でもないですからね。でも、名前を呼んで作業を指示すると圧倒的に動きが違いますね。

それから包丁の扱いですが、これは全くダメです。研ぎ方をいくら教えても上手く研げません。店の包丁がおかしな減り方をしてしまうので、彼らに任せるのは諦め、今は私がやっていました。

でも、荷物運びや掃除は全くしなくても済みましたね。しなくても済んだというと語弊がありますね。してはいけないと言った方が正確でしょうか・・・。つまり、それしかできないスタッフがいるので、やってしまうとその人の仕事を奪ってしまうことになってしまうのです。そのため、文句はつけますが、一切やらないようにしていましたね。

もう一つ気をつけていたことは、軽く背中を押したりということもしないようにしています。これは、ちょっと押しただけでも凄く怒られたりします。「押す」ということに関しては感覚が全く違うようですので、冗談でもしないように気をつけていましたね。

Q.

国が違えば、いろいろと違うものですね。南アの良いところについてはどうでしょう?

 

そうですね。まず天気は最高でしたね。それに全てにちょっと緩い?ところ。大部分の黒人は、それほど英語が上手くありませんので、私でも気後れせずに英語を喋れるというところも楽でしたね。

Q.

物価はどうですか?

 

私が南アを離れてからしばらく時間が経過していますので、今はまたちょっと違うかもしれませんが、当時はタバコが1箱約30ランド、使い捨てライター=5ランド、マクドナルドのコーヒー(小)=8ランド、ソフトクリーム=3ランド、ガソリンが1リットル=約6ランドといったところでした。
(参考:1ランド=7.75円前後、2019年7月現在)

Q.

バングラデシュについてもお聞かせください。

 

バングラも私に大きなインパクトを残した国の一つですね。ローカルのオーナーが寿司・和食・を新規に出店するということで行ったわけですが、自分の生活も仕事も少し落ち着いてきたかな~と思った頃に大きな事件がおきました。外交関係施設などが集まる地区で武装した7人がレストランに侵入、無差別に銃撃するなどし、襲撃したテロ事件です。外国人を中心に22人が亡くなり、うち7名は日本人でした。2016年に起こったこの事件は、覚えているという方も多いのではないかと思います。実は、当時私が勤務していたレストランは、このテロの場所から近かったのです。

その後、しばらくは様子を見ていましたが、このテロは外国人がターゲットになったということもあり、しばらくは仕事に集中できる環境ではないと判断し、オーナーとも話し合って離職を決めたのです。

Q.

この事件は、私も良く覚えています。森田シェフは大丈夫かと心配になり、連絡を入れました。さすがにこの事件が起こってからしばらくは、落ち着いて仕事ができるような感じではなかったですよね。

 

バングラは、一時アジアの最貧国の一つと言われていましたが、2000年代に入ってからは経済成長が続き、アパレル生産では中国に次ぐ世界第2位にまでなり、人口も多く、温和が国民性、更に言えば親日国・・・。イスラム教徒の食事についても勉強してみたいという気持ちもありました。これから面白い国かなあと思ったんですけどね。

Q.

バングラについてもいろいろとお聞きしたいことがあったのですが、この事件を思い出してしましました。バングラの話はまた別の機会にうかがうことにしたいと思います。

ところで、森田シェフは、僻地担当シェフ(笑)として、そのような国・都市の日本人料理人の求人情報は、どのように探すのですか?

 

以前は行きたい国のガイドブックのような書籍で日本料理店を見つけ、直接手紙を書いていました。1度目に南アに行ったのはそのように探したんです。現在はもっぱらインターネットですね。

Q.

今はインターネットだけではなく、当社もですよね?(笑)

 

ははー、そうでしたね。(笑)

Q.

しかし、ガイドブックに載っている日本料理店に手紙とはすごいですね。森田シェフの最初の海外はカナダだったと思いますが、そのときもガイドブックで手紙ですか?

 

いいえ。カナダに行ったのは22歳のときですが、中学生ぐらいのときから漠然と海外に出たいとは考えていて、当時は外国といえばアメリカぐらいしか知りませんでした。(笑)

ご存知だと思いますが、ワーキングホリデーという制度があって、昔はカナダ、オーストラリア、ニュージーランドぐらいしかこの制度がなかったんですよ。この3カ国で国境を陸路で越えられるのはカナダしかなかったのでカナダに行きました。その頃は、日本がバブルでカナダにもたくさんの旅行者や留学生がおり、そのお陰で日本料理店も多く、当時は日本語新聞で簡単に仕事を見つけられたんですね。

Q.

仕事の探し方は当時とは全く違っていますが、そのフットワークや行動力といったものは、海外で仕事をするには必要なことの一つなのかもしれませんね。最後にこれから海外で働きたい料理人へのアドバイスをいただきたいのですが、日本を出る前にどのような経験や勉強をしておくと良いでしょうか?

 

とにかく寿司は必須と考えています。寿司はできて当然、それ以外に何ができるか?ということではないでしょうか?日本にあり海外にも豊富にあるもの、例えば小麦粉で作るうどんや餃子の皮などを作れると料理の幅が広がります。後は肉料理。豚の角煮などは、ロシアやハンガリーでも好評でしたよ。ですので、居酒屋のような場所で働いてみるのも良い経験かもしれません。

まずは、日本でしっかりとした基礎を見につけることが必要ですね。そして英語を使えるようにしておくこと。

また、海外に行ったらまずその国の人に喜んでもらえるものを作ることを心がけると良いですね。そのために現地のことを良く勉強することも大事ですね。

腕のない人に限って、日本で海外のもの、海外で日本のものを中途半端に作ろうとします。しっかりとした基礎があれば、現地のものを使っていくらでもアレンジができると思います。また、これだけ海外に日本食レストランが増えてくると日本人なのに海外で寿司を習う人も増えてきます。そういう人たちは、粘りの少ない海外の米でしか寿司を握ったことがないので、寿司が硬い。なるべく握りを柔らかくすると良いと思います。

森田シェフ、ありがとうございました。今回は、森田シェフが働いたことのある国の中でも、特に大変であった(であろう?)2カ国のお話が中心になってしまいました。また次の機会に別の国でのご経験についてお聞かせください。今はスイスで就業中とのことですが、またいつか僻地での仕事をお受けになるのでしょうか・・・。
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